2025年度日本造園学会北海道支部大会「口頭・ポスター発表審査結果」

2025年度日本造園学会北海道支部大会「口頭・ポスター発表審査結果」


口頭・ポスター発表審査概要(学生部門)

・学生の口頭発表は8件,ポスター発表は28件の応募がありました。

・「新規性」「論理性」「表現力」「質疑応答」の4点について審査員8名(口頭発表4名,ポスター発表4名)による審査を行いました。

【口頭発表】

■全体的な講評

学生・一般をあわせた全体の研究発表件数は年々増加しており、今年度も多様な視点から活発な発表と議論が展開されました。近年の地域社会の変化や課題に焦点を当てた研究、ならびに即応性や応用可能性の高い研究が多く見られたことが印象的でした。また、札幌市周辺と室蘭市などの地方都市とでは、地域特有の課題が研究テーマの違いとして表れていた点も興味深く感じられました。

審議の結果、今年度は総合的に優れていると判断された発表1件に「口頭発表優秀賞」を、独創的な着眼点や新規性が特に顕著であった2件に「口頭発表奨励賞」を授与します。

・口頭発表優秀賞(1件)

1)粒來 綾香(つぶらい あやか)(北海道大学大学院農学院),愛甲 哲也,庄子 康

「札幌市の自然歩道利用者のヒグマ出没に対する意識・対応」

札幌市内の自然歩道利用者を対象に、ヒグマ出没に対する意識と行動を調査した研究です。多くの登山者が個別にヒグマ対策を認知・実施している一方で、地域レベルでの対策理解は十分とは言えず、出没増加後も行動を変えない人が多いことが明らかにされました。こうした即応性の高い知見は、今後の地域管理やリスクコミュニケーションに資するものとして重要です。研究手法・結果・考察のいずれも整理が行き届いており、全体として完成度の高い研究として高く評価されました。

・口頭発表奨励賞(2件)

2)佐伯 ほのか(さえき ほのか)(室蘭工業大学大学院工学研究科),市村 恒士

「自治体の意識からみた小規模公園における官民連携に関する新たなルール設定」

全国の自治体を対象にアンケートを行い、小規模公園における官民連携を促進する新たなルール設定の方向性・実現性を検討した研究です。数量化Ⅲ類やクラスター分析などの統計的解析に基づいて、新たなルールに対する意識の差異を明確にし、実務への応用を目指した具体的な提案ができていたことが評価されました。更なる研究の深化が期待されます。

3)孫 姚正(ソン ヤオジョン)(北海道大学大学院農学院),愛甲 哲也,庄子 康

「ヒグマ出没が札幌市近郊自然歩道の登山者数に及ぼす影響」

札幌市近郊の自然歩道を対象に、ヒグマ出没が登山者数に与える影響を定量的に分析した研究です。現地にトラフィックカウンターを設置して登山者数を連続的に記録し、ベイズ構造時系列モデルを用いて「出没がなかった場合」との比較により影響を推定した点は新規性が高く、独創的な試みとして高く評価されました。今後の研究の発展により、野生動物と人間活動の関係性に新たな知見がもたらされることが期待されます。

【ポスター発表】

■全体的な講評

今年度は講評対象のポスター発表は28件あり,その中から優秀賞4件が選ばれました。今年のポスター発表は、特に論理性や表現力について一定の成果に到達しており,その中にあって、特に着眼点や論理性、実装性などが優れているものを優秀賞としました。着眼点がよく、新たな植物の可能性を広げて、実現可能な研究と言えるもの、全体的に完成度が高いもの、論理性や表現力が優れているもの、実際の取り組みをまとめた、これまでにない表現を見せてくれたものの4点を選定しました。

 

・ポスター発表優秀賞(4件)

1)太田 咲月(おおた さつき)(札幌市立大学デザイン学部)

「福祉施設における植物の及ぼす心理的効果について」

社会福祉施設において、心理的健康を支える自然や植物との能動的な関わり方の新たな形として、花屋による訪問販売の有効性と効果を調査・分析した研究です。

従来取組まれてきた畑作業が、都市型の施設では土地や人的リソースを確保することが難しく、かつ北海道では通年的な取り組みが困難といった課題に着目し、その解決方法として花屋による訪問販売を実施している施設における、花屋と入居者とのコミュニケーションや利用頻度、花を自室に飾り手入れするといった能動的関わりの心理的効果を調査し、その分析結果から有効性を確認している点が評価されました。

2)加藤 優弥(かとう ゆうや)(室蘭工業大学大学院工学研究科)

「デジタルネイティブ世代の主な住まいとは異なる他地域への意識に関する研究」

自分の住まう地域とは異なる「他地域」としてサイバー空間に着目し、デジタルネイティブ世代が有する現実空間とサイバー空間における地域課題意識と、各空間に対する期待との関係性を分析した研究です。アンケートによる因子分析により、居住地域に対する意識や満足度に加え、自己研鑽や自己充足、自己表現といった潜在要素を抽出し、現実空間とサイバー空間が相互補完的に機能する価値観を示し、地域課題意識がサイバー空間と結びつき活用される傾向を明らかにした点が高く評価できます。全体として完成度が高く、質疑応答も的確であった点が評価されました。

3)小林 雅果(こばやし のりか)(札幌市立大学大学院デザイン研究科),大島 卓

「カフェ空間における利用者の座席選好性と採光環境要因」

カフェ空間で来店者が座席を選択する際の要因として採光環境が関係しているかに着目し、環境の異なる2つの店舗を比較分析して、その可能性を探った、店舗の空間計画に関する研究です。

実際の店舗で、来店者の座席選好の実態調査を通して選好要素を明らかにするとともに、採光など屋外の環境要因が来店者の行動に、どう影響するかを詳細に調査しており、こうした分析が論理を裏付けています。また、調査データの表現方法にも工夫が見られ、質疑応答も的確だった点が評価されました。

4)来田 玲子(くるた れいこ)(札幌市立大学大学院デザイン研究科),大島 卓,古俣 寛隆

「北海道森町の関係人口創出に資するアップサイクルプロジェクト

− 森町立小学校で使用されてきた道南杉天板を用いた展示台の製作」

本発表は、「地域おこし協力隊インターン制度」による約3週間の滞在において、地域住民との交流やフィールドワークを通じて地域資源や課題を見出し、その成果として、町立小学校にて使用されてきた机の天板をアップサイクルして展示台等を製作したプロジェクトの報告です。

一般的な研究とは趣が異なりますが、実際に作品を作り上げて地域の資源循環を提案するとともに、小学校の歴史を継承しようとする試みを独創的な取組みとして評価しました。

また、発表時の質疑応答も分かりやすく明快な対応であったことから、本発表を優秀賞として選定しました。

 

口頭・ポスター発表審査概要(一般部門)

一般部門は口頭発表6件、ポスター発表2件の発表がありました。独創性、有用性、社会性、適時性等の観点から審査を行いました。

■全体的な講評

今年度、口頭発表では地方卸売市場における卸売会社の役割と現状課題に関する報告、官民連携による都心部のプランター設置や宿根草花壇の管理、雨水浸透緑化など時宜性のある報告、寒冷地に適する緑化植物の生育に関する検討、神話の構成要素から景観デザインを導出する手法に関する試み、学校規模適正化が児童の地域活動にもたらす変化の考察、ポスター発表ではAIを活用した草本数の自動計測アプリ開発、自然公園新設に向けた合意形成手法の提案など、ランドスケープにかかわる多様なテーマの研究発表が行われました。審査の結果、独創性に優れた発表と評価された1件に口頭発表奨励賞を授与しました。

・口頭発表奨励賞(1件)

片桐 尉晶(有限会社風土計画舎)

「神話分析を用いたランドスケープデザインの発想法」

神話に描かれた構成要素から、ランドスケープデザインを導出する手法について検討したテーマ発表です。特に、北海道にゆかりの深い神話(智利幸恵「アイヌ神謡集」等)の朗読と、神話に描かれた構成要素の抽出、スケッチへの展開を、ワークショップ参加者による実践を通じて試みている点は興味深いと言えます。本研究で用いた手法は、今後特定の地域における歴史・文化にかかわる資料などを土地の記憶をたどる手がかりとして活用し、当該地域のコンテクストを内包した有用性の高いランドスケープデザイン展開につながる可能性を有する点で、独創性・有用性のある発表と評価できます。

 

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2025年11月14日 | カテゴリー : 支部大会 | 投稿者 : jilah